※この記事は2020年12月に書かれた記事の再掲です。
山本脩斗の湘南ベルマーレへの完全移籍が発表された。
「山本脩斗の7年間は、鹿島が必要なものを彼がもたらしてくれて、彼が活躍するために必要な環境を鹿島が用意したような、そんな7年間だった。」
と私はツイートしようと思ったけど「いやそれだけの言葉じゃ足りないな」と思い、ツイートを消してブログを書くことにした。
鹿島の弱点を補ったピース
山本脩斗は、2010年代前半の鹿島の弱点を補い、その後のJリーグタイトルやACL制覇に大きく貢献した選手だった。
「2010年代前半の鹿島の弱点」の1つは、端的に言えば左SBの守備力だった。
新井場から前野への世代交代が上手く進まず、ときには中田浩二がポジションに入ることも多かったのが山本脩斗が来る前年の鹿島の左SB。
この時代はミシャ率いる浦和、そして森保さん率いる広島が3-4-2-1を採用しており、鹿島はこの2チームに対して滅法弱かった。相手のWBにサイドを崩されまくった。広島のミキッチなんかには本当にチンチンにされていた。レッズにも本当に全然勝てなかった。
大迫が必死にゴールを取りまくっても勝てるチームにならなかったのは、紛れもなくサイドの守備の問題があった。
そこに2014年から山本脩斗が入った。
彼は対人の守備で他チームのアタッカーに負ける事なく、空中戦ではむしろ大きな武器になってくれた。
すると広島や浦和に対する苦手意識は徐々に薄まっていき、チームの戦績は上向いた。覚醒してきた西大伍と共に形成した鹿島の両翼はウィークからストロングへと変わっていった。
攻撃の西と守備・空中戦の山本。この2人はやじろべえのように絶妙なバランスを取ってチームを支えた。後にルヴァンカップ優勝やJリーグ優勝や天皇杯優勝、ACL優勝の原動力となったのは言うまでもない。
玄人好みのプレー
右サイドの西と比べて、いや、それまでの鹿島のレジェンドである相馬や新井場と比べても、山本脩斗は地味な選手だった。
絶品のクロスボールがあるわけではなく、ドリブル突破が得意なわけでもない。西大伍のようなテクニックもない。
それでも「目の前の対戦相手に(地上でも空中でも)負けない」という点において、山本脩斗は歴代のSBと比べても秀でていた。山本脩斗は必ずしも勝つ印象の選手ではない。でも負けない。山本脩斗は負けない。走り負けないし当たり負けしない。負けないから計算が立つし、周りの選手は安心して大胆にプレーできる。見ている側も安心して鹿島の左サイドを見る事が出来たのではないだろうか。
また山本脩斗は性格面でも鹿島にフィットしていたように思う。
鹿島には我の強い選手が多い。そんなチームの中で、キツい仕事を嫌な顔せずにこなして、不満を外に出さずに自分のやるべき仕事を続けてくれた。
時には緊急事態で出番が回ってきた時も、いつもと変わらぬ山本脩斗を見せてくれた。信じられないくらい過酷な連戦をフルで戦った時もいつも通りのプレーをしてくれた。
今年の小泉慶がそうであったように、もしかしたら鹿島のSBにはそういう忍耐強くてチームの為に働ける選手が必要なのかもしれない。
過去のレジェンドたちのような派手さは無いが、”強い鹿島”のベースを作ってくれた本当に重要な選手の1人だった。
カシマスタジアムが求めるもの
最近、私はカシマスタジアムに行くと考える事がある。
「このスタジアムは何を求めているのか?」
という事だ。
もちろん勝利を求めている。それは理解している上で、「カシマスタジアムの観客はどんなプレーに心揺さぶられているのだろうか?」という事を考えている。
そして導いた1つ仮説がある。
目の前の相手に負けない事、五分五分のボールに勝つ事。カシマスタジアムでは、そんなプレーに力のこもった拍手が起きやすい。華麗なオーバーヘッドキックやヒールキックではなく、力のこもったプレーに対して良い拍手が起きる。
もしかしたらこれが鹿島アントラーズのアイデンティティの1つなのかもしれない。そんな事を最近は考える。
だから永木亮太の全力プレーに震えるし、町田が相手のFWをふっ飛ばした時には盛り上がる。
きっとカシマスタジアムのサポーターは、”勝利”以前の根本の所でそういうプレーを求めているのだと思う。
そんなアイデンティティの中で7年間、山本脩斗は戦っていた。
愛されるに決まっている。山本脩斗が見せたプレーは、紛れもなくカシマスタジアムのサポーターが求めるプレーだったのだから。
言葉にできない感謝を背番号16に
もう一度書くが、2010年代の鹿島のベースを作り上げた1人は山本脩斗だった。
何千キロ何万キロという、想像を絶する距離を鹿島アントラーズのために黙々と走り続けてくれた。
最後に……私自身が書くこのブログは、彼のような選手の素晴らしさを言葉にして伝える事が使命だと思うのだけれど、彼の見えざる苦労や数多の功績を想像してしまうとやっぱり上手く言葉には出来なかった。
それでも今の気持ちを忘れぬようにと拙い文章にしてそっと公開しておきます。
山本脩斗、あなたと共に戦えて良かった。素晴らしい日々だった。また会いましょう。